忘れたくても忘れられない30分を過ごしたことがある。
僕は音楽が好きだ。
中学生の頃、たまたまギターを始めて、コードを押さえられるようになったくらいのところで、ベースがカッコいいバンドに夢中になり、あっさりベースに転向した。
そして、高校生になりバンドに夢中になった。
そしてもちろん、大学進学後も、バンドをやっていた。
ある時、当時やっていたバンドからボーカルとドラムが抜け、ベースの僕とギターをやっていたケイタ君の二人だけのバンド(と呼んでいいかも最早わからない)になった時のこと。
まだネットがそこまで普及しきっていなかった当時はネットでメンバーを探すなんてことはなかったので、ライブハウスやスタジオに張り紙があり、その紙には貼り紙の主のパート、やりたいジャンル、そして電話番号やメールアドレスが書いてあった。
今考えるとおおらかな時代だ。
そんなメンバー募集の紙を頼りに、僕とケイタ君は色々な人に会った。
その日も、ドラムをやっている年上の人と会うからとケイタ君に呼ばれて、下北沢まで行った。
ケイタ君に「マックの前で待ち合わせしてるから」と言われて待っていた僕らの前に現れたのは、なるほど年上ということが一目でわかる、痩せた男性だった。
バンドのメンバー募集で会う場合、それはお互いにとって面接というかそういった類の会合で、まずは人当たりよく接するものだと、僕らはそんなふうに思っていたし、そうしていた。そして、それまでのメンバー募集で会った人たちも、みんなそのように僕らに振る舞った。
しかし、その人は違った。
「バンドなんてやってても無駄だよ」
と、いきなり言う。
まだ僕らのデモテープも聴いてないのに言う笑
僕らの見た目でそう言ったとかそういう話ではなくて(多分)。
落ち着いて話を聞いていくと、バンドで上昇したくとも思うようにいかない日々の中で、そういったマインドになっていて、そのような言葉を繰り返す人になってしまったようだった。
それでも30分くらいは話しただろうか。
結局その人は、
「気がついたら30歳だよ。俺みたいになったら取り返しがつかないよ。」と僕らに告げて去っていった。
まだ20歳だった僕は、その言葉になんと答えていいのか分からず、座っていたマックの2階席から、下北を歩く若者たちの姿をぼーっと眺めていた。
あの人は、今どうしてるだろうか。
バンドをやっていて、いろんな楽しい人と出会えたし、今思い出しても微笑むような楽しい思い出もたくさんある。
だけど、下北のマックで出会ったあの人のことを思い出すと、バンドをやっていて楽しかったのは僕が若かったからなのかもしれないとも考える。
僕が程なくしてバンドを辞めたのはあの人のせいではないけれど、仕事を始めて軌道に乗って色々うまくいくようになってからも、あの人のことはたびたび僕の脳裏を掠め続けていた。
あの人が言ってたように、あれからもバンドに固執していたら僕はどうなっていたんだろうか。
感謝しているとかそういうストレートな気持ちではないけど、記憶にはずっと残っていて、これは多分一生忘れない。
僕の人生で30分しか関わってないことを考えると、驚異的な印象の残り方だ。
そして、僕は今でも音楽を楽しんでいる。再開したのだ。
当時とは形は違うけど、一応再開したとは言える(と思っている)。
仕事漬けの時には音楽を楽しむなんて考えもしなかったから、ブランクはめちゃくちゃあるけど、それでも再開できた。
あれから時間が経ち、いい時代になった。DTMが普及したおかげだ。
バンドをやっていた時のように、メンバーとスケジュールを合わせたり、スタジオを予約したりしなくていい。その代わり、大きな音は出せないけど。
それでも自室の机の上ででも、自分の好きな音を鳴らすことができるようになったのは大きい。
一旦はあの人が言ったように辞めたけど、また再開できたことは本当に嬉しい。
辞めた何かをまた始めるのは、ある意味でとても簡単だ。
しかし、継続するというのは、とても難しい。
今度は、もうやめない。
そして、あの人のことも、きっと忘れない。
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